September 10 – 22, 1984

 

Granit Gespalten
Granit Gespalten 1984

ウルリッヒ・リュックリーム

1984年9月10日–22日

ウルリッヒ・リュックリーム 展 カタログ (PDF 5MB)

 

リュックリームの石彫

中原佑介

無技巧の技巧といういい方をするなら、西ドイツのウルリッヒ・リュックリームの石彫ほどそれを如実に感じさせる例も少ないのではないかと思う。リュックリームの作品は、石に手を加えて技巧をこらし、複雑な形態をつくりだすというのではない。といって、ただ単に石塊を放りだすようにして作品とするのでもない。直方体状、角柱状、あるいは板状の石に、垂直もしくは水平方向に切れ目を入れるだけというのが、リュックリームの作品の特質である。

切れ目が入れられることによって、石は人エの世界にとりこまれる。しかしまた同時に、切れ目が入れられているだけということで、自然物としての石という面がよりいっそう際立つ。いってみれば、リュックリームの石彫は、人工の世界と自然界の境界に位置しているかの如くである。今、モニュメンタリティということばを使うなら、リュックリームの石彫は、石が石であるという事実のモニュメンタリティを感じさせるとでもいえようか。

今回鎌倉画廊で開かれたリュックリームの個展は、日本での彼のはじめての個展ということになるが、出品作は二点で、いずれも小豆島で制作されたものである。九月一日から三日まで、滋賀県の守山市で開催された「現代彫刻国際シンポジウムー九八四」のパネリストの一人として来日したリュックリームは、同時に同じ守山市のびわ湖の湖岸を会場として開かれた「びわこ現代彫刻展」の出品者の一人としても選ばれ、小豆島に滞在して、御影石を用いて数点の作品を制作した。

個展の作品は、ひとつは白御影、もう一点は黒御影を素材としている。うち前者は地表にでている部分の高さが約ニメートル五〇センチのもので、先に触れたように角柱状の石に水平方向に切れ目を入れただけの作品である。(これは屋外のための作品としてつくられたので、画廊内に展示されていない。)画廊内に展示されている後者は、黒御影の直方体状の石塊を垂直方向に三分し、外側の二面が床面に置かれたものである。二枚の石板にはタテに切れ目を入れ、一部分が研磨されて鏡面仕上げになっている。技巧的には、ただ切れ目を入れただけの作品よりも手が込んでいて、リュックリームの近作の新らしい展開を示す一点といえよう。あるいは、より彫刻的な展開を示している作品というべきかもしれない。

石を切るというだけでなく、石を彫るということが、リュックリームの近作にはあらわれているが、(「びわこ現代彫刻展」の作品もそういう傾向に立っている)、この彫刻家がそういう方向を強めてゆくのかどうか、については知らない。今回の個展の作品は、ウルリッヒ・リュックリームの対比的な二点だということで、二点だけではあるけれども、この彫刻家の作品の特質をよく伝えるものになっているように思う。